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大阪地方裁判所 昭和31年(ワ)5014号 判決 1962年12月21日

判   決

原告

桑原常

桑原隆

桑原純代

原告桑原隆同純代の親権者母

桑原常

右原告ら訴訟代理人弁護士

阿倍幸作

米田実

右訴訟復代理人弁護士

越智譲

被告

正木伊蔵

竹林正義こと

竹林守

正木康一

右被告ら訴訟代理人弁護士

伊藤増一

主文

一、被告正木伊蔵は原告桑原常に対し金五五〇、〇〇〇円原告桑原隆同桑原純代に対し各金四二〇、〇〇〇円とこれらに対し夫々昭和三一年一月二日から右支払いずみまで年五分の割合による金員を支払いせよ。

二、被告竹林守同正木康一は連帯して原告桑原常に対し金五五〇、〇〇〇円原告桑原隆同桑原純代に対し各金四二〇、〇〇〇円とこれらに対し夫々同日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払いせよ。

三、原告らのその余の請求を棄却する。

四、訴訟費用は被告らの負担とする。

五、この裁判は第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人らは次のように述べた。

第一、請求の趣旨

一、被告正木伊蔵は原告桑原常に対し金六〇〇、〇〇〇円原告桑原隆同桑原純代に対し各金四五〇、〇〇〇円とこれらに対し夫々昭和三一年一月二日から右支払いずみまで年五分の割合による金員を支払いせよ。

二、被告竹林守同正木康一は連帯して原告桑原常に対し金六〇〇、〇〇〇円原告桑原隆同桑原純代に対し各金四五〇、〇〇〇円とこれらに対し夫々同日から右支払いずみまで年五分の割合による金員を支払いせよ。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決と仮執行の宣言を求める。

第二、請求の原因事実

一、被告竹林正義こと竹林守は被告正木伊蔵が経営する織布工場に勤務しており、被告正木康一は被告正木伊蔵の長男で右工場にこれまた勤務し、同工場で出来つた織布を、被告正木伊蔵所有の三輪貨物自動車(大六―八八六一五号)を使つてこれを売先その他に運搬しており、従つて、右自動車の管理維持の責任に当つていた。

二、被告正木康一と同竹林守は昭和三〇年一二月三一日夜八時頃自宅の近所の訴外新矢義隆方でともに年越し酒の振舞をうけ、同正木康一は当時未成年者であるのに両名は自分の定量以上の飲酒をし、被告正木康一は、自分の管理している右自動車を引き出し、同竹林守を同乗させて住吉神社に初詣に出発し、途中給油所まで行つてそこから被告竹林守と運転を代つた。しかし被告竹林守は法令に定められた運転の資格がなく無免許で運転するわけで被告正木康一はこのことを知りながら被告竹林守に運転をまかせ自分は助手席で眠つていた。このようにして被告竹林守は昭和三一年一月一日午前一時四〇分頃時速四〇粁の速度で大阪市住吉区粉浜本町二丁目一六番地道路上を南進中左前方約二一米の地点に二輪足踏自転車に乗つて南進している訴外亡桑原幸次郎の姿を発見し同人を追越そうとしたがこのような場合自動車運転者は速度を減じて出来るだけ道路中央寄りを進行して自転車との間隔を充分保つてその挙動に注意し、何時でも停車して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、被告竹林守は右飲酒の酔のため右注意義務を怠り右速度のまま近接し右自転車の後部に右自動車の右前部を追突させて、右桑原幸次郎をその場に、はね倒し、よつて同人をして同日同区粉浜本町松下医院で胸部内臓挫滅によつて死亡させた。

三、(一) 右事故は、被告竹林守が無免許で、しかも飲酒酩酊のうえ右注意義務に違反して惹起したものであるから同被告はその責任を免れることはできない。

(二) 被告正木康一は、被告竹林守が無免許でしかも飲酒しているためこれに運転をさせることは危険であることを知悉して敢て運転させるのであるから、このような場合に自分は助手席で終始被告竹林守の運転を監視し事故を起さないよう指導しなければならない注意義務があるのに、被告正木康一は助手席で眠り続けて右義務を怠つたため本件事故を惹起せしめたもので、同被告も共同不法行為者としてその責に任じなければならない。

(三) 被告正木伊蔵は被告竹林守と同正木康一の使用者として右事故に対し責任がある。

被告竹林守と同正木康一の右自動車の運転は被告正木伊蔵の事業の執行に付いてなされたとしてよい。即ち被告正木康一は前述のように出来上つた織布の運搬の仕事をしているが、それは被告正木伊蔵の事業の一環となる仕事である。そのような地位にある被告正木康一が、同正木伊蔵の商売繁栄を祈つて被告竹林守と打ち揃つて初詣に行くため右自動車を運転する行為は、被告正木伊蔵の事業の社会活動の一面をなしている。そのことはとりもなおさず、被告正木康一同竹林守が事業の執行に付いて本件事故を惹起したことになり、被告正木伊蔵は使用者としてその責を免れることはできない。

四、右桑原幸次郎は昭和三〇年二月から同市福島区海老江下一丁目三番地訴外尾崎商店に勤務し毎月金一五、〇〇〇円の収入をえていた。そのうち同人の生活費は毎月五、〇〇〇円であるからこれを差引くと同人の得べかりし利益は年収金一二〇、〇〇〇円である。

同人は明治四一年一一月九日生れで昭和二九年七月厚生省厚生大臣官房統計調査部刊行第九回余命表によると同人の余命は二二、八八年であるから同人の得べかりし利益をホフマン式計算法によつて計算すると金一、八〇五、四〇〇円となり、本件事故により同人は同額の損害を被つたわけである。

原告桑原常は同人の妻として右のうち金六〇一、八〇〇円を同桑原隆同桑原純代は同人の子として右のうち夫々同額を各遺産相続した。

被告らは右事故により夫又は父を失い精神的苦痛をうけた。当事者双方の社会的地位、職業資産加害の動機態様など諸般の事情を考慮し、被告らは原告桑原常に対し金三〇〇、〇〇〇円、その他の原告らに対し各金一〇〇、〇〇〇円を支払つて慰藉すべきである。

五、そこで被告らに対し、原告桑原常は物質的損害として金六〇一、八〇〇円のうち金三五〇、〇〇〇円と、慰藉料金三五〇、〇〇〇円のうち金二五〇、〇〇〇円以上合計金六〇〇、〇〇〇円、その他の原告らは夫々物質的損害として金六〇一、八〇〇円のうち金三五〇、〇〇〇円と慰藉料各金一〇〇、〇〇〇円以上合計金四五〇、〇〇〇円とこれらに対し本件事故発生の翌日である昭和三一年一月二日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。なお被告正木康一と同竹林守とは共同不法行為者であるから右損害金の支払いについて連帯してその支払いをすることを求める。

第三、被告らの答弁に対する反駁

民法七一五条の事業の執行に付きとは、被用者が或る程度の使用者の指揮命令のもとに立つものであればよく本件事故が使用者の命令によることを必要としないし、会社の乗用自動車の専任でない運転手が勤務時間外に勝手に乗用車を自分のために使用した場合でも、これは会社の社会活動の一面であるから事業の執行についての場合に該当するとした判例(東京地裁昭和三二年八月二四日判決)からしても、本件事故は被告正木康一と同竹林守が被告正木伊蔵の事業の執行について惹起したものである。

被告ら訴訟代理人は次のように述べた。

第一、請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二、請求の原因事実に対する答弁

一、原告ら主張の請求の原因事実中、一、の事実のうち被告竹林守と同正木康一が同正木伊蔵が経営する織布工場に勤務していることは認める。

二、同二、の事実に対し次の事実を認め、その余の事実を争う。

被告正木康一は初詣に行くため主張の自動車に被告竹林守を同乗させて運転し、給油所から無免許の被告竹林守が運転し、主張の頃主張のところで本件事故を起し、桑原幸次郎に負傷を負わせそのため同人を死亡させたことは認める。

三、同三、の事実に対し、

(一)  被告正木康一と同竹林守は争う。

(二)  同正木伊蔵も使用者として責任がない。

同被告が経営に係る織布工場は昭和三〇年一二月三〇日仕事を終えて同月三一日から年末年始の休日に入つていたもので、同被告の就寝中他の被告らが勝手に右車を持ち出して初詣に行つて本件事故を惹起したわけで、被告正木伊蔵の事業とは全く無関係である。

同被告が他の被告らに初詣を命じたこともない。

四、同四の事実も争う。

被告正木伊蔵は本件事故後道義的責任を感じ葬式費用として金三〇、〇〇〇円医者代金一、八五〇円自転車修理費金三、〇〇〇円を原告ら方に贈り、慰藉の誠意を尽した。

第三、抗弁

仮に被告正木伊蔵に使用者としての責任があるとしても、同被告が他の被告らの選任及びその事業の監督について相当の注意をしてもその監督外で本件事故を惹起したものであるから被告正木伊蔵には賠償責任がない。

証拠関係≪省略≫

理由

一、被告竹林守は同正木伊蔵が経営する織布工場に勤務しており、同正木康一も同正木伊蔵の長男で右工場に勤務していることと被告正木康一が住吉神社に初詣をするため、被告正木伊蔵が所有する三輪貨物自動車(大六―八八六一五号)を自宅から引き出し、被告竹林守を同乗させて給油所まで運転し、そこで今度は法令に定められた運転資格がない無免許の被告竹林守が運転し昭和三一年一月一日午前一時四〇分頃大阪市住吉区粉浜本町二丁目一六番地道路上で、訴外亡桑原幸次郎と衝突し、同人に胸部内臓挫滅の傷害を負はせそのため同日同人を死亡させたことは当事者間に争がない。

二、そこで本件事故の経緯について判断する。

右争いのない事実や(証拠―省略)を総合すると次のことが認められる。

(一)  被告正木伊蔵は昭和八年頃から織布工場を経営しており、昭和三一年頃は従業員一五名織機八台月産平均三二〇〇枚純益月平均金四五、〇〇〇円を挙げていた。

(二)  同被告は昭和三〇年六月頃自家用として右工場のため前記自動車を購入し、被告正木康一が同年八月三日付で運転免許をとり専ら右自動車を運転して商品の運搬に当り被告竹林守が助手をして時には同被告単独で右自動車を運転することもあつたが、同被告は法令に定められた運転免許をえていなかつた。

被告正木伊蔵は同竹林守が右のように無免許で運転していることを知り、交通巡査のいない道を通るよう指示を与えていた。

(三)  右工場は昭和三〇年一二月三〇日午後五時で仕事を終り同月三一日から昭和三一年一月四日まで年末年始の休暇に入つた。被告竹林守と被告正木康一は昭和三〇年一二月三一日午後八時頃近所の訴外新矢義隆方で開かれていた忘年会に加わり、被告らは湯呑茶碗に三杯位の酒を飲み、酔う程に被告正木康一が同竹林守に住吉神社に初詣に行くことを提案したところ同被告はこれに賛成し、右被告ら両名は右新矢方を辞去して右工場に行き酒の勢いでそこに格納された右自動車を引き出し、被告正木康一が運転し同竹林守が同乗して岸和田市上野町にある給油所まで行つてそこで給油したが、同正木康一が酔つているのを見た同竹林守は同被告に代つて右自動車を操縦しようとしたので被告正木康一はこれを制止した。しかし同竹林守が「俺が運転する。絶対大丈夫や。」と言うのでそのまま同竹林守に運転させ、自分は助手席で何時しか眠つてしまつた。同竹林守は、右自動車を運転し、時速約四〇粁の速度で本件事故現場に差しかかつた。

(四)  本件事故現場は、南北に走る国道二六号線という幅員二七米の主要幹線道路で見通しはよく、本件事故現場の南約三二米のところで東西に通ずる道路と十字に交差しており、本件事故現場の右自動車の制限速度は三五米である。

(五)  被告竹林守は右道路の東側を南進中その進路左前方約二〇米位のところを二輪足踏自転車に乗つた右桑原幸次郎が酒に酔いそのハンドルを左右にとられ蛇行しながら同方向に行くのを発見し警音器を二、三回吹鳴し同人の右側をそのままの速度で追い越そうとしたところ、同人が進路を進行方向に向つて右の方に切つたので、そのまま東から西に同道路を横断するものと判断しあわててハンドルを左に切つたが間にあわず、右自動車の右側フエンダーを右自転車の後輪泥よけに追突して同人をはね倒し、同人に胸部内臓挫滅の傷害を負わせ直ちに本件事故で目を醒した被告正木康一が右車に同人をのせて附近の松下病院に運び込み、手当をしたが、同人は昭和三一年一月一日午前二時頃同病院で死亡した。

(七)  被告竹林守は、右追突後ブレーキをかけたが飲酒していたためどこでそのブレーキを掛けたか記憶しない状態であつた。なおそのとき進路前方には、同人の外車や人はなかつた。このようなことが認められ、(中略)ほかに右認定をくつがえすことのできる証拠はない。

三、(一) 右認定の事実からすると、被告竹林守は、飲酒かつ無免許でしかも制限速度に違反して本件事故現場を右自動車を運転して通つたものでこのこと自体重大な過失であるが、更に本件事故現場に差しかかつたとき進路の左前方に明らかに酒に酔つて自転車のハンドルをとられ蛇行していく自転車乗りを発見したのであるから、速度を減じ右自転車のほか進路前方には人車がなかつた以上道路中央寄りを進行して右自転車と間隔を充分保ち、その挙動に注意して何時でも停車することのできる措置をとるなど事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるところ同被告は飲酒のため正常な判断力を失い、時速四〇粁の速度のままで右自転車の右側を追い越すことができると考えて減速をせず蛇行している自転車が自分の進路の前方を塞ぐことが当然予想されるのに充分自転車乗りの挙動に注意を配らず右注意義務に違反して本件事故を惹起したもので、同被告は右過失による不法行為について損害賠償義務があること勿論である。

(二) 被告正木康一は、被告竹林守が無免許で右自動車を運転することを知つたのであるから、そのときそれを制止してそれ以上運転の続行を断念すべきであり、被告竹林守がその制止にも拘らず運転するのであれば、助手席から同被告の運転を終始監視し、適切な指示を与えるなどして指導し同被告が技倆拙劣のため事故を起しそうなときは適切な運転上の指示を与えるのは勿論のことすばやく同被告と交替して運転し事故を未然に防止すべき注意義務があるのに、被告正木康一は助手席で居眠りをして右注意義務を全く果さなかつたもので、右違反は本件事故の原因の一端を構成しており、同被告も過失による共同不法行為者として被告竹林守と連帯して損害賠償義務を負担しなければならない。

(三) 民法七一五条にいわゆる事業の執行についてという文言は事業執行を被用者の意思を基準とせず客観的に判断し広く事業の執行行為と同様の外観を有する行為はすべて事業の執行についてされた行為であり、従つて加害行為の有する不法の分子を除去して考えれば事業執行行為自体であると考えられるような行為を指称すると解するのが相当である。(最判昭和三〇、一二、二二民集九巻一四号二〇四七頁参照)

本件においても被告正木康一と同竹林守とが自分の仕事外である初詣をする意思のもとに右車を運転したのであるが、そのような被告らの意思を基準とするわけにはいかないのであつて、本件加害行為の有する不法の分子である酩酊による無免許運転にもとづく注意義務違反を除去して観察すれば被告正木康一が被告正木伊蔵の織布工場の製品運搬のため右自動車を運転すること自体被告正木伊蔵の事業の執行であり、被告竹林守も右自動車の助手を勤め、時には単独で同車を運転することを被告正木伊蔵によつて許容されていたのであるから、被告竹林守の右自動車の運転自体も被告正木伊蔵の事業の執行といえる。そうすると本件事故は被告竹林守が同正木伊蔵の事業の執行中に惹起したもので、従つて同正木伊蔵は使用者として本件事故による損害の賠償義務を負担しなければならない筋合である。

四、被告正木伊蔵主張の抗弁について考察すると、

本件に顕れた全証拠を検討しても被告正木伊蔵主張の抗弁事実を肯認することのできる証拠はないから右抗弁は採用に由ない。

五、そこで進んで損害の額について判断する。

(一)  物質的損害

(証拠―省略) によると、桑原幸次郎は本件事故当時大阪市福島区中央市場内訴外尾崎商店に勤務月収金一五、〇〇〇円以上あつたことが認められ、(中略)ほかに右認定に反する証拠はない。

原告らは桑原幸次郎はその中から生活費として金五、〇〇〇円を必要としたとしてそれを控除しているが、当裁判所にも昭和三一年当時月収金一五、〇〇〇円の人の一ケ月の生活費が金五、〇〇〇円であることが経験則上推認できるから同人の一カ月の生活費を同額と計上するのが相当である。

そうすると同人の得べかりし利益は年額金一二〇、〇〇〇円である。

同人が明治四一年一一月九日生れの男子であることは成立に争いのない甲第一号証によつて認められるからその平均余命が原告ら主張どおり二二、八八年であることは当裁判所に顕著な事実である。そうして、同人が病弱であるとか、持病があるため近い将来その一生を終ることを窺知させる何等の特別事情のない本件では同人は今後尚二二、八八年の間その生命を保つてその間稼動して同額の収益を挙げうるものとしてよい。そこでその間の得べかりし利益を今ホフマン式計算法で計算すると、

になる。

しかし右認定のとおり桑原幸次郎も飲酒し、自転車のハンドルを左右にとられながら蛇行し、右自動車の進路前方に出たのであるから同人は、自分も正常に自転車を運転できる状態でないことを省み下車して右自転車を押して通行すべきであるのにその挙に出なかつたわけで、このことは過失であり、それが本件事故発生の原因の一つを構成しているから同人の右過失を相殺して損害額を決定すべきである。そこで当裁判所は右を考慮し物質的損害を金一、二〇〇、〇〇〇円と認める。

原告桑原常は同人の妻としてその三分の一を、同桑原隆同桑原純代は同人の子として夫々その三分の一を遺産相続したことは前掲甲第一号証(戸籍謄本)によつて認められるから原告らは各金四〇〇、〇〇〇円の物質的損害賠償債権を遺産相続により取得したことになる。

(二)  精神的損害

原告らが夫又は父を失つたことにより夫々精神的打撃をうけたことは推認に難くない。

(1)  被告正木伊蔵は前記認定のとおり織布工場を営み月収金四五、〇〇〇円であること。

(2)  被告正木康一は同被告の長男でこれといつた財産がないことが成立に争いのない甲第六号証によつて認められる。

(3)  同竹林守もこれといつた財産がなく当時月収金一二、〇〇〇円にすぎないことが成立に争いのない同第五号証によつて認められる。

(4)  桑原幸次郎と原告らは戦後無一物で朝鮮から引揚げたもので、円満な家庭生活を送つていたが本件事故のため、原告らは生活に因り原告桑原常は訴外大日本セルロイド株式会社の女子寮に小使として、ほかの原告らとともに住込みその月収が金一二、〇〇〇円で、親類の補助をうけて原告桑原隆、同桑原純代を学校に通学させていることが原告桑原常の本人尋問の結果認められる。

(5)  被告正木伊蔵は本件事故のあつたことを聞知し早速原告桑原常にあつて謝罪し桑原幸次郎の葬式代として金三〇、〇〇〇円入院費用金一、八五〇円自転車修理費を各支出したことが被告正木伊蔵の本人尋問の結果認められる。

そこで右各事実や本件に顕れた諸般の事情及び桑原幸次郎の過失をも斟酌し被告らは、原告桑原常に対しては金二〇〇、〇〇〇円そのほかの原告らに対しては夫々金七〇、〇〇〇円を支払つて慰藉するのが相当である。

六、以上で被告らに対し(但し被告竹林守と同正木康一は連帯して)原告桑原常は物質的損害として金四〇〇、〇〇〇円慰藉料として金二〇〇、〇〇〇円、そのほかの原告らは夫々物質的損害として同額と慰藉料として金七〇、〇〇〇円の賠償請求権があることになるから本訴請求は原告桑原常が物質的損害として本訴で請求していうるち金三五〇、〇〇〇円と慰藉料金二〇〇、〇〇〇円計金五五〇、〇〇〇円そのほかの原告らが夫々物質的損害として本訴で請求しているうち金三五〇、〇〇〇円と慰藉料金七〇、〇〇〇円計四二〇、〇〇〇円とこれらに対し本件事故発生の日の翌日である昭和三一年一月二日から右支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める範囲で正当として認容しそれを越える部分は失当として棄却し民訴八九条九二条一九六条を適用して主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第三九民事部

裁判官 古 崎 慶 長

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